TPUショックパッドを作る

↑ APEX Predator に採用されているTPUショックパッド。これはAPEXのサイトから拝借した画像だが、この現物が私の手元に到着した。これは見た目そのままで3dプリンターによってTPUフィラメントで作られている。

これは何のパーツか?

↑ このようにマウンテンボードの足を置く位置に貼る衝撃緩和のパッドである。

衝撃緩和の他に、パッド裏センターに平編銅線をトンネルさせてボード中心にあるトップマウントバッテリーから後部のESCに電気を供給させるのにも役立つ。

トップマウントバッテリーの悩みどころであるケーブルの処理がスマートに行えます、ということでアイデアがとても気に入っていた。ということで私もTPUでショックパッドを作ってみましょう、と。

↑ で、設計したのがコレであり、実はデザイン4案目かつ試作4つ目。Landyachtz スイッチブレードデッキのためのショックパッド。

意外や意外、設計がなかなか困難である。平編銅線を通す部分やら全体の形状やらはそこまで難しくない。

パッド全体の硬さの調整とデッキの凹凸にフィットさせる切り込みの位置、そしてつま先やかかとにあたるサイド部分はカービング時にチカラが逃げないように硬くしたいなど、機能を求めると色々やることが多いのだ。

硬さの調整に関してはTPUフィラメントにおけるパッドの中身の密度による。3dプリンターゆえに密度(3dプリンターにおいては充填率とかインフィルなどと言われる)を任意に設定できるのだが、密度を構成する形状にも左右される。

例えばハニカム構造(蜂の巣状)は頑丈な内部構造の形状であるとか一度は聞いたことがあると思う。しかし近年3dプリンター界でのトレンドは「ジャイロイド」形状である。

↑ これがジャイロイド形状。360度全方位からの圧力や衝撃に強く、なおかつ低密度で強度を得られる形状だと言われている。射出成形やら金型での製造では不可能な内部構造だが、3dプリンターではこれが実現可能である。

最近の3dプリンターのスライスアプリはこのジャイロイドが選択できる。むしろフィラメント(材料)を節約しつつ中身を詰めたい、そして軽量でありながら強度も両立させたいならジャイロイド一択という状況だ。ということで試作3つ目はジャイロイド、充填率15%(つまり残りの85%は空洞・・というか空気)で印刷してみた。

結果はフワッというか、フニフニというか、ちょっと柔らかすぎるな・・・という結果になった。TPU、ジャイロイド15%は流石に柔らかすぎた。高反発で硬めのスポンジみたいな感触。さらに言えば全体をジャイロイド15%で印刷したのでパッドのサイド側も柔らかい。これではカービング時にチカラが逃げる。

次はパッドの両サイドは固くなるように設計しつつ、ジャイロイド25%で試作4つ目。

↑ 試作4つ目の印刷途中。全体的にスチールタワシのようにモジャモジャしているのがジャイロイド構造の部分。充填率は25%だ。赤く囲んだ部分はパッドのサイド部分であり、ここはジャイロイド構造ではなく固くなるように造形している。つま先や踵でデッキ(ショックパッド)を踏み込んだ時にチカラが逃げないようにするためだ。あと数時間でこのジャイロイド部分は覆われて見えなくなる。ちなみに印刷に掛かる総時間は16時間。これでもジャイロイドのおかげで材料と印刷時間は節約されているほうなのだ。
↑ ジャイロイド部分を拡大するとこんな感じ。0.4mmのノズルで0.25mmずつ積層している。実際の印刷では一見波線を引いてるだけのように見える。しかし積層ごとに少しずつ波線をズラしながら重ねていき、ジャイロイド構造を造形していく。

で、試作4つ目もデッキへのフィットがイマイチであり、デザインに小変更を加えた試作5つ目に突入。

↑ 試作5つ目。赤く囲んだ部分に溝を増やした。Landyachtz スイッチブレードのドロップダウン部分の形状にフィットさせるために溝を増やしてショックパッドが曲がりやすいようにした。試作4つ目のノウハウを活かしてサイド部分は硬めのジャイロイド構造無し、その他はジャイロイド25%。堅すぎず、柔らか過ぎずの絶妙な出来になった、と思う。

試作、試作で結局TPUフィラメントのスプールを丸々ひとつ消費し、ふたつめのスプールでようやく使用できるであろうショックパッドを作れる運びとなった。

これはマルチボルト2号機に採用する予定だ。