Bio Board Thorium X4

トリウムX4とは?

https://www.bioboards.se/en/home/

バイオボード・トリウムX4。スウェーデンの会社が製造する電動スケートボード。実績のある高品質なDIY用の部品を組み合わせて製造される。これは220KVの6374モーターとギヤドライブを4輪に配置した狂気のモンスター4WDマシンである。

それがついに完成した。完成したというのは、バイオボードは日本に輸入するにあたりバッテリーは付属してこない。リチウムイオンバッテリーの空輸規定のためであり、アメリカなどの販売分はバッテリー無しの状態でスウェーデンから発送され、アメリカ現地のビルダーがバッテリーパックを組み込んだのち顧客に出荷する。

このたび私もバッテリー無しで購入し、自力でバッテリーを組み込んで完成させた次第である。従来はサムスン30Qセルの、12s6p & 120AのBMS。

しかし私はサムスン40Tセルの12s6p & 放電バイパスとした。

↑ サムスン40T12s6p。1036Wh。4WDのためにFOCBOX Unityも2個搭載!

他にも細かいモディファイを施した。自作ノーズハンドル、自作テールガード、3D Servisasの電圧計、電源ボタンの位置変更など。

実走インプレッション

さっそく走ってみた。恐ろしいほどのトルクで平地のごとく坂を駆け上がる。重力感がない。自転車で坂を上る時や自然吸気エンジンの軽自動車で坂を上る時のような、上り坂特有のかったるさというものを微塵も感じさせない、少し違和感のある走行感覚とトルク感である。

安易な設定とスロットル操作では身体全体が後ろに振り落とされるかのような加速。4輪制動で下り坂でもしっかりと止まるブレーキ。

トルクの少ないマシンではスロットルカーブはさほど重要ではなく、電流のさじ加減だけで上手くセッティングできる。しかしこのトリウムX4はトルクの塊であり、ランピングタイムやスロットルカーブでスロットル入力によるトルクの立ち上がりを緩和することも必要。電流の設定だけでは調整が難しい。

しかし調整さえ上手くやれば後はどうにかなる。極論を言えば、かなり控えめな設定にすれば初心者でも乗れる。これがFOCBOX Unity(VESC)のメリットだろう。スマホで手軽にササッと設定を変えられる。

話は戻って加速の具合であるが、過去のそれなりに速いボードであるRaptor2やTorque Boardsの90KVダイレクトドライブを備えた自作マシンのさらに上をいく。これらのマシンでは頭打ちという速度域でスロットルを開けるとトリウムX4はさらにドンっと加速する。詳しい速度は書かないが、過去の2台で頭打ちという領域から、さらに乗り手を振り落そうかというような加速をするのだ。はっきり言って異常である。

それでも速度をあげてその領域をさらに越えるとギヤドライブからは悲鳴のようなキーーーンという高周波音を発しはじめる。中低速では聴けない凄みのある音で、既存の電動スケートボードでは体験できないヤバい領域に入っていることをさらに強調してくれる。これはトリウムX4だけで、なおかつトリウムX4をそれなりに乗れる者にしか体験できない。

ブレーキも過去のマシンは2輪制動だが、トリウムX4は4輪制動。しっかり減速してピタッと止まる。ハイスピードマシンにはとても重要なポイント。この速度域までいくと、2輪制動は正直なところ少し不安があったが、トリウムX4はそれがない。私が気に入ったポイントのひとつである。

ランドヤッツEVOは海外のDIY電動スケートボードでは人気のデッキであり私も愛用しているのだが、トリウムX4にも外観を変えた同じデッキが採用されている。ハイスピードマシンには特に効果を発揮するデッキであり、その辺のデッキと比べても高速安定性が段違いである。

ABEC11スーパーフライ107mmもハイスペックマシンではおなじみのウィール。乗り心地が良い。ハイスピードマシンではポヨンポヨンと曲がるフレックスデッキは使い物にならないし、柔らかすぎるショックライザーもコーナリングをスポイルする。ゆえにウィールが乗り心地を大きく左右するのだ。

4つのギヤドライブは独特の音を響かせながら効率よくパワーを伝達する。これくらいのスペックのマシンなら音はあったほうが良いというのが私の意見。モーター走行のハイブリッドカーみたいに無音で人に気づかれにくいのはかえって危ない。

2.4:1のハイギヤードなギヤ比に220KVのモーターは最高速を伸ばすが、とても最高速を試す気になれない。さすがに好奇心より恐怖が上回る。6374モーター2個でも市場では最高レベルの性能なのに、それが4個もあるのだから「さすがにやりすぎだよ」という感じだが、ブレーキや上り坂のトルクというメリットがあるので無駄だとは言い切れない。ゆえにトリウムX4はいろんな方向から他のマシンではあり得ない異質な体験を提供してくれる。

↑ FOCBOX Unityのモーター熱制限はオフにしたほうが懸命だ。これはモーターの熱が上がりすぎた時に出力をカットするセーフティ機能なのだが、どうもこれが悪さをするらしくアクセルを開けている時にまれにカットオフ(瞬断)が入る。走行中にアクセルの入力が一瞬途切れるのだ。諸説あるが、この現象は6374などのハイパワーモーターで熱に関係なく起こりやすいなどと言われている。

けっこう怖いのでこれはオフにしたほうがよい。なお4WDの利点としてモーターがほとんど熱くなることがない。4つに負荷が分散するのでモーターにかなり余裕があるのだ。ゆえにX4においては熱制限自体、必要がない。オフにしよう。ギヤドライブなら2WDでもそこまで加熱しない。ギヤドライブのギヤケース自体もモーターの放熱を兼ねるのだ。

欠点

ズバリ重さだろう。測ってはいないがおそらく20kg近くはある。もはやスケボーの重さではない。電動キックスクーターのほうがモデルによっては軽いというケースもあるだろう。

あとは初心者でもうまく設定すれば乗れないことはないが、初心者が買うボードというにはかなり無理がある。Raptor2ですら満足できなくなったスピードジャンキーこそがメインターゲットだろう。

バッテリー無し(No Battery)でなければ買えないのも日本在住の人には大きなデメリット。それに値段も安くない。小型のオートバイ並みだ。とにかく乗り手に多くを求め、敷居が高い。

その他

バイオボード社代表のマッカン氏に「バッテリー無しで購入した顧客はどれくらいいる?」と尋ねたら「アメリカのように現地の業者がバッテリーを組み込むケース以外、個人客ではあなただけです。」と言われた。実際に自力でこれを作るのは難しいし、完成品が買えるならそれに越したことはない。Raptor2より速いマシンが欲しいならバイオボードは最有力候補だ。

インスタなどを見る限り、どうも売れ筋は2WDのトリウムXのほうである。はっきり言って2WDのトリウムXでも充分すぎるパワーがあり、Raptor2に楽勝である。(私は短期間ながらギヤドライブ&6374モーター、EVOデッキの2WD仮想トリウムXに乗っていた時期がある。)

つまりトリウムX4を買うのは相当な変人だろう。

しかし、とにかく速いマシンが欲しいならコレである。正直なところトリウムXでもX4でも、どちらでも良い。それでも「どっちが良いんだよ?」と聞かれると難しい。Xのほうでも従来の電動スケートボードの常識範囲ではしっかり坂は上るしブレーキも充分に効く。間違いなく言えることは同じバッテリーという条件ならば、Xのほうがたくさんの距離を走れるということ。もっと言えばXならバッテリーも多く積める。

じゃあX4を買うメリットは?私からは「変人の酔狂」としか言えないのである・・・言葉では表しにくい何かがある。スピードジャンキーがより強力な刺激を求める、一歩間違えれば破滅に向かう危うさと隣り合わせのスリル・・・30〜40km/hを越えれば少なからずそういう感覚が出てくるが、X4はそれが他のマシンと比べ物にならないくらい濃い。スロットルひとつで一瞬にしてヤバイ世界に身を投じ、ブレーキひとつで何事もない世界にフッと戻る。

Xの走行体験は既存の電動スケートボードの延長線上にありなんとなくまだ現実味を感じさせるが、X4はどこか逸脱している。この逸脱した異質感はけっこう貴重な体験になるだろうし、これを気に入る人もいるだろう。私も数少ないその1人である。