電動スケボーにおけるビジネスモデルについて、素人なりに考えてみる

この業界は比較的新しい業界で、完成品を売っているメーカーもあれば、部品のみを供給している会社、海外にはオリジナルボード製作請負、バッテリーパック専門のビルダーまである。混沌として非常に面白い状況であり、ユーザーは多くの会社の中からチョイスする楽しみがある。

この中で最近考えさせられるのは完成品メーカーのリスクだ。とくにドライブ、ESC、バッテリーパック、リモコンなどの通信系、デッキデザインなどすべて自社設計でやっているところはリスクが高いように見える。ドライブやESCはとくにトラブルが出やすいのだ。これらひとつでも不具合が出れば完成品は成り立たない。苦労して時間をかけて不具合を修正し続けてようやくノントラブルな製品が実現した頃には時代遅れのボードになっていることすら十分にあり得る。

自社の部品がすべて問題なく使えることでようやく半分までOK、そこから完成品としてのバランスや出来の良さ、価格設定が適正かどうか、世界各国への流通は問題ないか?そもそも訴求力がある魅力的な製品か?製品が売れるまで抱えている問題は山積みなのだ。

自社でなんでもかんでもやる事が正しい事なのか?最近の電動スケボーを見ているとどうも疑問に思えてくる。例えば最近の中華ボードのESCはホビーウイングが大半を担っている。ESCは電動スケボーの要であり、これがダメだと全てがダメになる。専門メーカーに任せるのは理にかなっている。

見ている限りウィールも難しい。耐摩耗性、適度な柔らかさやしなやかさ、そして破損に対しても強くなければならない。そういうウレタンに関するノウハウがあるだろう。新規参入でいきなり上手くいく事業には見えない。

バッテリーパックも難しい。中華ボードはほどんど10s2pダブルスタックだ。これがもっとも汎用的であり構造上堅牢だからだ。シングルスタックは耐衝撃性を考慮すると量産が難しい。Evolve GTRの曲がるシングルスタックバッテリーパックは自社開発したが、おそらく多くの金と時間を掛けただろう。

自動車も、ボディ専門の会社、タイヤメーカー、ホイール、トランスミッション、ガラス、ハンドル、シート、エンジンパーツ、ヘッドライト、バッテリー、その他いろんな専門会社の集合体で成り立っている。電動スケボーも完成品メーカーはもちろん「個々の部品を自社で設計や指定したものを外注しているのだろう。」しかしそれにも限界がチラチラと見えてきた感じがするのである。

かつては中華ボードもオリジナル要素が強いのものが色々とあった。Staryはその最たるもので野心的だったが失敗した。koowheelも交換できるバッテリーパックがウリだったが、これもInboard M1と共にアイデアは沈んでしまった。しかしStaryのデッキコンセプトはExway X1に、koowheelはホビーウイングESCの実績としてそれぞれ今に受け継がれている。

今ではハブモーター、ホビーウイングESC、10s2pバッテリー、セパレートタイプのデッキというのが中華ボードの定番だ。トラックは最近ではパリスやキャリバーなどの有名メーカーのトラックを使っていたりする。信頼あるトラックメーカーの物を使った方が良いと判断した結果だろう。中華ボードは一見自社の名を冠したオリジナルボードに見えて、部品の供給元は似たり寄ったりである。しかしこれこそが手堅いビジネス形態だろう。元々ある部品を上手く使って完成品を手がける手法だ。

Inboard M1、koowheel 2、Stary、これらが沈んでいったのはオリジナル設計に拘りすぎた結果だと思う。独自過ぎると修理も改造も難しい。

「電動スケボーはユーザーが修理や部品交換できるモジュール性のある設計にすべきだ。」

これはenertionのCEO、ジェイソン・ポッター氏が提唱した電動スケボーにおける理念である。

しかしその理念を提唱し設計されたRaptor2.1はなかなか不具合を修正できず出荷が進まない。モジュール性はあっても一社で色々やってきた結果、個々のパーツの修正対応に追われる事態となってしまったのだ。Raptor2.0と2.1は似ているようで中身はまるっきり違う。2.1は本来3.0を名乗ってもいいだろう。ESCからモーターまで完全なる新設計で別物だからだ。さらにデッキまでデザインを変えている。2.1を名乗っているのは、おそらく最終的なスペックが2.0とほどんど変わらないからだろう。新開発への意欲は凄いが現実が追いつかない状態だ。個人的には非常に応援しているメーカーだが・・・

そして今、「DIYにおける」部品供給業者からのパーツで構成されたDIYプレビルドメーカーなる会社が出てきた。Bio boards、Kary NYCなどだ。本来デッキ専門メーカーであるSub sonicもこのDIYプレビルドに参入してきた。部品供給会社のレベルも非常に高い。個人的に贔屓にしている部品供給会社は3D Servisas、eboostedだ。

3D Servisasはどちらかと言えばマニアックな会社だ。Fatboyという名の自社製品を展開している。ここのギヤドライブはかなり良い。最近ギヤカバーのデザインが変更されてメンテナンス性が向上した。

eboostedはエンクロージャー専門の会社だがここのエンクロージャーは耐久性、デザイン、フィット感、文句なしだ。グラスファイバー入りで柔軟性もある。私もここから3つのエンクロージャーを購入している。最近はBio boards以外にも引き合いがあるらしく、いくつかのDIYプレビルドメーカーやDIYボード製作請負会社などがここのエンクロージャーを使い始めている。

最近はHaggy boardも名を上げている。ドライブに特化した会社だ。今ではDIYパーツ販売だけだが、そのうちDIYプレビルドメーカーがここのパーツを採用するかもしれない。

こういった質の高い部品供給会社からのパーツを使って完成させるメーカーがDIYプレビルドメーカーなのだが、これにはいくつかの利点がある。

まず部品の供給が安定している。納期も極端に遅れることがない。それらを補修用のパーツとして我々ユーザーが直接部品を単体で購入できる。元がDIYなのでユーザー側で修理が可能だ。ジェイソン氏が提唱しているモジュール性の理念にも則っている。メーカー側が1から10まで設計する手間がない。部品も個々の専門会社で作られているので品質が良い。信頼あるパーツを使うのでリスクも少ない。

DIYを自分でやる人でも、各パーツを世界中からかき集めるよりもDIYプレビルドを買った方が送料の無駄と自作の労力を省ける。これはもちろん各個人の判断になるが。

DIYプレビルドメーカーは、言ってしまえば専門家が吟味したパーツを使った組み立て専門会社とも言える。DIYボードの製作請負と完成品販売の中間みたいな立ち位置だ。こう言うのも悪いが、下手なDIYよりも高性能で間違いのないパーツチョイスをしてくれるだろう。全体的な電動スケボーのデザイン構想から部品単位で設計・製作に入るのではなく、現存するパーツを使って製品全体をデザインする。既存の完成品メーカーとはアプローチが違うのだ。

それでいてまとまりのある物がそれなりに出来上がってしまう。しかも性能も良く部品にも信頼性がある。その時期(ロット)に応じて、ちょいちょい使用パーツを変更することもある。今後はこのDIYプレビルドは人気が出るのではないか?と予想している。そのぶん参入障壁が低いとも言えるが、DIYは苦手だと言うユーザーが高性能なボードを入手できるのはありがたい。

DIYプレビルドの購入には上記以外にも個人的に大きな利点がある。それはプロの製作技法を勉強できるのだ。配線のまとめ方、ボードの信頼性を高めるための工夫など、見るべき点がたくさんある。己のDIY知識や技術を飛躍的にアップさせてくれるだろう。

長々と書いたが、表題に戻ると産業構造を見直す必要もあるのかな?と感じた次第。新しいアイデアや新開発の製品を随時投入する先鋭的な会社はリスクが高く、保守的すぎても製品訴求力はなくなる。手を広げ過ぎるとリスクは増大する。パーツの設計は専門業者に任せてリスクを分散するべきではないか?

あくまで素人の考えなので正解はわからないが、今後も色々と情勢は変わるだろう。