BMSの放電バイパスって実際のところどうなの?

BMSという部品がリチウムイオンバッテリーパックを組む上で必要不可欠である。バッテリー・マネジメント・システム。電圧を管理するための部品。

電動スケボーの自作を始めたときにコレの配線方法とか全くわからず、海外のサイトから情報を集めても海外の人たちのあいだですら

「これで配線は合ってますか?」

「違う、こうだ。」

みたいな感じで、合ってるのか間違ってるのかよくわからないという検索結果に行きつき、私の中でもわからない状況が長く続いた。VESCとともに電動スケボー自作の2大障壁とも言える。

リチウムイオン=爆発、炎上というイメージがある。一時期どこかのメーカーのスマホが火を吹いたとか焦げたとか連日ニュースになった。

こんなイメージもあるのか、リチウムイオンを使ってバッテリーを自作するぜ!という人がなかなか現れない。どこでセルを買うのか?そもそも知識も設備もないよ、という人も大勢いるだろう。

電動スケボーに使われるBMSは、もちろん使うBMSにもよるのだが大半はものすごく複雑な動きをしているわけではないようだ。例えば10直列4並列。ひとつの並列グループが4.2Vに達したら(BMSによっては4.25Vなど微妙に異なる)充電はカット。ここで見た目上の充電は完了。あとは高い電圧の並列グループをBMSが熱放散させつつも残りの並列も電圧を均一化する。過電圧防止、セルバランスを整えるというのが充電におけるBMSの役割。

つまりプロセスとして一見充電完了となったように見えても、見た目上の充電完了直後はまだセルバランスが取れていない。充電完了後もしばらく充電プラグを挿しっぱなしにするのはこのためだ。これはバッテリーの容量やセルバランスの崩れ具合によっては数時間にも及ぶ。

次にBMSの放電におけるセーフティ。過放電を防ぐためにバッテリーの出力をBMSで止めるという機能。ここで意見が分かれる。

「過放電でバッテリーが壊れたら嫌だ。だから放電もBMSで管理すべきだ。」

「いやいや、ESCでも低電圧カットできるし。BMSの放電保護はそんなに必要ないでしょ」

それぞれの言い分があるが私は後者である。ではそれぞれのメリットとデメリットを。

まずBMSによる過放電保護。下に、とあるBMSの仕様表を載せる。

↑ 赤枠で囲んだ部分はオーバーディスチャージプロテクション。つまり過放電保護であり、このBMSの場合は3.0Vで放電をストップする。ここで注意するのは「どれかひとつの並列グループが3.0Vになったら出力を停止する」ということだ。例えば10直列で、10ある並列グループのうち、ひとつでも3.0Vになったら止まる。ほかの並列が3.2Vとかでも止まる。つまりバッテリーを保護してくれる代わりに出力を止める。これがBMS放電のメリット。

後付けのアンチスパークスイッチの中には待機電力をけっこう食う物もある。それによる低電圧化を水際で食い止めるのにもBMSの放電保護が役に立つ。私の経験上、後付けのアンチスパークスイッチはオススメしかねる。これの待機電力は意外にも大きい。とくに放電バイパスと後付けアンチスパークスイッチの組み合わせは最悪だ。油断して放置しているとバッテリーが死ぬことになるのでこまめな充電が要求される。

↑ これがBMSを介した放電を行うための配線。ESC(FOCBOX Unity)にはプラスはバッテリーから、マイナスはBMSから繋いでいる。

「放電ではBMSを使わないよ、ESCとバッテリーを直結する!」という放電バイパス配線の場合はBMSによる並列グループ単位の保護を得られない。そのかわりESC(VESC)によってパック全体の電圧を検知してそれなりに保護される。

↑ これが放電バイパス配線。放電時はBMSの保護を受けない。プラス・マイナスともにバッテリーから直接ESC(FOCBOX Unity)に繋ぐ。ふたつの配線図を見るとわかるが、違いはESC側のマイナスをBMSのP-(出力)に繋ぐか、バッテリーから直接マイナスを繋ぐかの違いでしかない。

「BMSの低電圧保護を受けられるなら受けたほうが良いじゃん。」と思われるかもしれないが、ここで電動スケボーならではの事情が出てくる。BMSには出力アンペアの制限もあるからだ。先ほどのBMSの仕様表を見ると分かるが、2の項のマックスディスチャージカレント、つまり最大出力電流は10Aしかない。10Aというのは電動スケボーにおいてはけっこうショボイ。モード切り替え式のボードでいうところのエコモードに毛が生えた程度。

電動スケボーで使うなら最大出力30〜40Aは欲しい。80Aもあれば言うことなし。しかし80AのBMSは値段も高くて大きさもデカい。そこで出力はショボくても安くてコンパクトなBMSの出番だ。

放電バイパスの配線ならBMSの出力性能を無視できる。あとはバッテリーセルの性能次第だ。サムスン30Qなら1並列(1セル)15A。2並列なら30A、3並列なら45Aという具合。

そして先ほど述べたとおり、VESCなら低電圧保護の電圧をパック全体として任意に設定できる。10直列なら3.4V × 10直列で34Vあたりにカットオフスタートを設定するのが通例だ。

VESCの低電圧保護は賢い。2段階保護であり、まずカットオフスタートによって出力を制限する。パワーを意図的に抑えて使用停止を促す段階だ。次にカットオフエンド、これは3.1V × 直列数が通例だ。10直列なら31V。ここでようやく強制的に止まる。つまりBMSによる3.0Vの保護よりも前にVESCの保護で止まるのだ。

VESCのみの保護による欠点は、BMSのように並列グループ単位では検知せず、あくまでパック全体の電圧だけ見ているという点だ。つまり放電ではセルバランスが崩れても検知してくれない。3.4Vあたりをカットオフスタート設定とするのはその辺の猶予でもある。仮にセルバランスが崩れているとしても致命傷になる前に使用を止めて、充電によってセルバランスを戻す。

「怖いわあ。やっぱり放電もBMSで保護したほうが良くない?」

BMS放電か、放電バイパスか。選択の基準はつまるところこれである。

私は過去に放電バイパスでボードをいくつか組んできた。ここで今回の表題である「放電バイパスって実際どうなの?」に対する回答として

ズバリ私には何も問題がない。

しかし問題ないとするにはいくつか条件がある。それはセルバランスを崩さないように確実にバッテリーを組むことである。ニッケルの溶接不足を排除し、ハンダ付けもしっかりやり、絶縁紙やカプトンテープでガードしまくる。もちろん振動によるダメージを抑える組み方も大事だ。

そして、たまには充電プラグを挿しっぱなしにしてバランスを取る時間を設ける。

VESCの放電保護設定もカットオフスタート3.4V。これに達したらなるべく走るのを止めるのが無難でありトラブル防止にもなる。3.1Vまでならまだイケルぜ〜、みたいなことをするのは良くないだろう。

そして安くてコンパクトなBMSなら占有スペースも小さいので、その分より多くのセルを積める。これのメリットがデカい。

また過去にBMS放電と放電バイパスのどちらが良いか議論がされてきたが、最近(2020.5現在)では放電バイパスを採用しているDIYビルダーが優勢だ。

↑ Bioboards プルトニウムのバッテリー仕様の一部抜粋。これにはFlexi BMSが基板に組み込まれており充電のみBMSが介入し、放電ではBMSが介入しない。つまり仕様上放電バイパスのバッテリーパックである。

最後にBMSの選択基準を。まず大きさ、縦横厚さの3辺である。そして最大放電アンペアと最大充電アンペア。放電バイパスで配線するならば最大放電アンペアは無視できる。

あとはバランスのアンペアである。先ほどの仕様表、8の項にバランスの項目があるが、このバランスのアンペアが大きいほど早くセルバランスを取ってくれる。