数値的なバッテリー容量が大きければそれに応じてより長い距離を走れるのか?
これは基本的には正しいと言えるが、それだけが全てではないと言える。走り方でも変わるし、使用しているバッテリーセルでも変わる。乗り手の体重でも変わるしドライブの効率でも変わる。数値上のバッテリー容量が多くても効率の悪いドライブだと、バッテリー容量が少ない効率の良いドライブを搭載したボードに負ける事もある。
そしてESCでも変わる。
ESCの何で変わるのかというと、カットオフ電圧の設定値である。
VESCのデフォルトのカットオフスタートは1セルあたり3.4V、これに直列数を掛けた電圧がバッテリーパック全体のカットオフスタート電圧となる。10sなら34Vから、12sなら40.8VからVESCによって出力を意図的に落とす。いわゆる強制エコモードだ。
そしてカットオフエンドの設定電圧に到達することによって完全に停止する。VESCのカットオフエンドは1セルあたり3.1V。つまり1セルあたりの平均3.4〜3.1Vの間が「そろそろ走るのを止めとけよ〜」という猶予である。
ただしこれらはあくまでデフォルトであり、VESCはアプリでカットオフスタート、カットオフエンドをそれぞれ任意に変更することが可能だ。
長らく、3.4Vから出力を落として3.1Vで停止というのがデフォルトの数値として使われてきたが、この考えを少し改める必要が出てきた。
このEVOLVEのブログである。「35E vs 30Q」なぜ35Eを選択したのか書かれている。
電圧(残量)が落ちてきたときの特性として、35Eは残量が少ないときに粘る。
↑ 7Aで放電し続けた場合、3.4V(緑の横線)に先に到達するのは35E、しかし3.0V(青の横線)に先に到達するのは30Qである。3.4V〜3.0Vまでは35Eのほうがカーブが安定しており、この領域で逆転する。
7A × 4p = 28Aという出力はそんなに頻繁に使うことはない。フル加速や上り坂くらいだろう。走り全体としての平均出力はもっと下がる。
↑ 3Aの場合。4pで12A。3.4Vで走りを止めるとなると、35Eも30Qもそこまでタイミングは変わらない。35Eの良さを引き出すならば、3.1Vあたりまで走らないと勿体ないということになる。30Qは3.4Vより下だと電圧が落ちる角度が変わる。35Eは3.1Vあたりまで角度が安定している。
↑ 35Eと20R。サムスン20RはAE board AE2のバッテリーセルだ。AE2において、20R以外のバッテリーオプションが無い点について疑問に思っていた。
20Rは3.4Vあたりから極端に電圧が落ちる。
もしAE2のESCが20Rセルの特性に最適化されていて、グラフが示すとおり3.4Vあたりで早々にカットオフエンドで走行停止になるのなら、35Eを使う意味はほとんど無いということになる。20Rを保守的な設定で使うとなると3.4Vでの停止設定は有り得なくもない。
3.4Vで走行停止ならば、35Eと20Rの差は黄色い矢印だけの差に留まり、35Eの残りの緑の囲いの部分は全くの無駄となる。35Eの良さを引き出すならば緑の囲いの部分も使いたい、せめて3.1Vあたりまで。
これは35E10s4pが完成したら検証しなければならない。検証方法は簡単で、止まったらそのときのバッテリー電圧を測定するだけだ。LingYi ESCの停止電圧設定が3.4Vだった場合、VESCへの載せ替えを検討するだろう。3.1Vあたりなら特にESCを変更するつもりは無し。はたしてどうなるか?
つまり、セルの特性に合わせてESCの停止電圧を変えることで、より走行距離を伸ばせるし、この設定が悪いと距離を伸ばせない。また20Rのように特定の電圧から急激に落ちるような特性のセルならば、保守的な設定にすることで走行距離と引き換えにセルを保護できる。
また2019年代におけるACK maniac(カスタムされたVESC Toolソフトウェア)ではカットオフスタートがセルあたり3.0V、カットオフエンドが2.8Vに設定されている。これもまた興味深い。少し攻めた設定だ。対して本家のVESC Toolは保守的とも言える。
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