クラウドファンディングと混迷の時代

2016〜2017年に電動スケボーを扱うクラウドファンディングが流行っていた。Kick starterやIndie gogoなどが主なサイトであり、そこに人々の興味をひく電動スケボーが掲載されていた。boosted boardsも発祥はクラウドファンディングだ。

クラウドファンディングはプロトタイプを少数(1台?)製作し、クラウドファンディングサイト内に動画でそれを紹介、プレゼンする。

「私たちはこんなアイデアの製品を作ってみた。これを量産し販売する。そのための資金が欲しい。」

「量産に成功したら報酬として完成した製品をあなたの元に送るので、量産するための資金を提供してほしい。」

クラウドファンディングはこんな具合で銀行から融資を受けるのではなく、その製品とアイデアに感銘を受けた世界中の一般人から資金を募り、そのお金で製品開発、量産、しいては事業として軌道に乗せようというスタートアップ支援だ。一見すると素晴らしい制度に見える(見えた)のだが、現実的には10あるプロジェクトのうち、ホンモノは1〜2つといった具合だった。

流れとしてまず、アーリーバードと言って早い段階での資金提供者には格安で製品の発送を約束するケースが多い。初回限定10名は格安、次は少しだけ値上がりして20名・・・みたいな具合だ。そして資金提供を受けるには期間が設けられており、期日を迎えた時点で締め切り。あとは製品開発や製造に邁進するので完成までしばらく待ってね、という感じだ。

この流れの中に罠がたくさんあるのだ。まず詐欺ありきで渾身のプロトタイプとプレゼン動画で資金を募り、しばらくしたら音信不通になるケース。

次に資金を先に受け取ってしまったゆえにファウンダー(資金を募った企画者)がやる気を無くしてそのままフェードアウトするケース。

頑張ったけど無理でした、ごめんなさいというケース。

さらには頑張って、頑張っているんだけどっ・・!とダラダラ遅延しまくるケース。

遅延しまくった挙句に完成した製品が思ったよりも出来が悪かったというケース。

遅延している間に同業他社がもっと優れた製品を先に生産・販売してしまい、バッカー側(資金提供者)が歯ぎしりする羽目になるケース。

そのアイデアだけをパクって中国企業が先に製品化を果たして販売するケース。

アイデアどころかクラウドファンディング製品の製造の外注先から製造工程上の何かしらが漏れて、公式ではないところから極めて似た製品が販売されるというケース。

・・・完成し、結果として当初の期待どおりの満足のいく製品でした!というパターンは滅多にないのだ。殆どアテが外れる。それが10あるプロジェクトのうちホンモノは1〜2つということなのだ。

2017年6月ごろにEvolve GTXが発売されたとき、電動スケボーにおけるクラウドファンディングは間もなく終わると直感的に感じた。もうクラウドファンディングに頼る必要なく、信頼できる電動スケボーが普通に買える時代の到来を感じたからだ。事実2018年以降はパッタリと減った。

クラウドファンディングから製品化を果たしたものも今では見る影もない。クラウドファンディングから製品化されたものは1stバッチ、初期ロットであり、その後改良されたもの、それより優れたものがどんどん出回ることになる。

当初は良いアイデアだと思ったものが、のちに評価が覆ることもある。Inboard M1の交換式バッテリーのアイデアがそれだ。市場は小さい容量のバッテリーをこまめに交換するよりも、交換の必要がない大容量バッテリーを選んだ。交換式バッテリーの電動スケボーは結果的には流行らなかったのだ。小さいバッテリーは容量も少ないがパワーも出せない、結果として効率も悪い。

アイデアは素晴らしかったが量産化が上手くいかず、別の企業が量産化を果たしたケースもある。CARVONが提唱したダイレクトドライブと、製品化を果たしたTorque Boardsの関係がそれにあたる。

野心的なアイデアだったが結果として失敗だったのはStaryの遊星歯車ドライブだろう。コンパクトな機構でトルクを稼げるのは良かったが、そのぶんバックトルクもキツく操縦性は最悪だった。しかも音がやたらうるさい。これはいまだに売れ残りが日本のサイトで販売されていたりする。パッと見、モーターが見えない電動スケボーのドライブはハブモーターに取って変わられた。

メロウドライブのようなロングボードに直接ドライブとバッテリーの一体型ユニットを取り付けて好きなロングボードを電動化できるキットというアイデアもあった。これは速攻で中国企業にアイデアをパクられた。しかも結局このアイデアは流行らなかった。(これを書いた後日にLoadedから似たようなものが出てきたのは驚いたが。)

最終的な勝者は誰か?

私個人の考えでは明確な勝者などいない。優劣が目まぐるしく変わる様を3年以上見てきた。クラウドファンディングでさまざまなアイデアの電動スケボーが出てきて、それに似たようなものや改良版が他社から出てきた。失敗して使えないと判断されたアイデアもある。そんな繰り返しの末に2019年の今がある。今の天下は強いて言えば中華ボードだろう。かつて粗悪品の代名詞だった中華ボードは今や品質を追い求め、boostedやEvolveを超える勢いだ。

その中華ボードも混迷の時代から生き残ったアイデアと合理性の結晶だろう。ダメなアイデアは使わず、良いアイデアだけを取り入れて極めて無駄なく合理的に作られている。一時期はトラックが割れるだのエンクロージャーが割れるだの、品質に不安があったがそれも改良され、今では完全に成熟期に入っている。

表題に戻り、クラウドファンディングというのはほとんど詐欺まがいであり、少なくとも電動スケボーやそれに関わるユーザーに対してなにかメリットがあったのか?

私は大いにアリだと思っている。アイデアのスクラップアンドビルドを繰り返し、業界の進化を促進したと思っている。今の中華ボードは、ある意味究極の後出しジャンケンではないか?とも思う。新しいモノを作り出すにはアイデア、お金、情熱、時間が掛かる。すでに出ているアイデアやパーツを取捨選択して構築するほうがはるかにラクで効率が良いだろう。

「今」があるのは、アイデアを出したスタートアップ、資金を提供したバッカー、アイデアをパクった企業、その蚊帳の外の企業。いろんなものが交錯して今があると思っている。

取られるだけ取られた私のお金も役に立っていると信じたい・・・(泣)

余談ではあるが、私がKick starterでバックしたものの中で良かったと思ったのは、

・Raptor2(電動スケートボード)

・Bloodstained:Ritual of the Night(ゲーム)

このふたつである。Raptor2は私の主力ボードとして1年間走りまくった。これも少し遅延したが他社製品に対し、その時代において性能面での優位性は保った。

↑ Bloodstaindは出資から完成まで4年もかかった。メチャクチャ長い!しかし探索型2Dアクションゲームとしてとても良い出来だと思う。結果としては発売されてから買っても何も問題はなかっただろう。しかし、出資者がいたからこそ世に出たゲームなのだ。

今年の梅雨はよく雨が降っているので、ゲームをするのにちょうど良い。